株式投資において最もポピュラーな指標であるPER。
私は長期投資に取り組んでいく中で、この指標の使いづらさを実感するようになりました。
なぜかというと、PERでは「安定性」と「成長性」とが混ざってしまうからです。
長期投資を通じて資産の複利成長を享受するためには、このそれぞれを分けて検証することが欠かせません。
いくら成長していてもブレが大きければ、複利効果は減殺されてしまうからです。
よって、PERの水準だけで単純に割高・割安を判断することは危険だとさえ考えています。
PERの理論値から分かること
コーポレートファイナンス理論でDDM(配当割引モデル)を学んでいきますと、以下の式に行き着きます。
PER(理論値)=1÷{r(資本コスト)-g(成長率)}
*当期純利益は最終的に残余利益の請求権者である株主に帰属するという考えから、配当性向=1とする立場を採っています。
(参考になるサイト)

この式から分かることは、
(1) 資本コスト↑ ⇒ PER↓
(2) 資本コスト↓ ⇒ PER↑
(3) 成長率 ↑ ⇒ PER↑
(4) 成長率 ↓ ⇒ PER↓
であり、理論上は「資本コスト」と「成長率」の組み合わせでその水準が決まっていくということです。
ただその認識を持ってPERを使っている方は、少数派であるように思います。
PERを使うことのリスクは、「成長率」にばかり目が行ってしまい、もう一つの要素である「資本コスト」を無視してしまいがちなことです。
では、「資本コスト」とは一体何なのでしょうか?
資本コストとは何か
資本コストとは、資金を調達する側の企業にとっては最低限乗り越えなければならないハードルレートです。
裏返せば投資家にとっての最低要求利回りであり、リスクを表す指標でもあります。
リスクが高ければ高いリターンを要求しますし、リスクが低ければ低いリターンで我慢しなければいけません。
ジャンク債と国債の関係を考えれば分かりますよね。
ということで、資本コスト(リスク)が高ければ益回りは高くなり、その逆数であるPERは低くなるはずで、逆に資本コストが低ければPERは高くなるはず、というわけです。
投資家によるリスク認識は、マーケット全体、個々の企業のビジネスの質、開示姿勢(先々が見通せるかどうか)など、様々なものの影響を受けますが、大事なのは「安定性」の高いビジネスは資本コストが低くなる傾向にあるということです。
PERでの比較の難しさ
毎期の業績に下方硬直性があって安定していて、しかも事業環境からして成長も約束されているような企業は、非常に高いPERがついても不思議ではありません。
(上記式の(2)×(3))
逆に自動車関連や商社のように業績が不安定で、右肩上がりの成長が見通しづらい企業は、低いPERがついて当然です。
(上記式の(1)×(4))
個々の企業のPERの高低の背景として「投資家がどういうリスク認識を持っていて、成長性をどう見積もっているのか」を分解して考えないと、判断を誤ってしまいかねません。
特に、PERでのスクリーニングには意味がないと私は思っています。
例えば15倍という水準が本当に高いのか安いのかは、個々に企業を見ていかないと分かりませんので。
PERを使う場面
私がPERがある程度有効だと思えるのは、過去のPERとの比較です。
PERの水準の変化が何によってもたらされたのかを考え、自分の仮説と市場の認識とのギャップを見つけることがリターンの源泉となり得るからです。
マーケット全体がリスクオン(オフ)になったことによるものなのか
その企業のビジネスモデルの変化によるものなのか
事業環境の変化によるものなのか
等々。
PERは誰もが見る指標なだけに、使い方にはひと工夫が必要なのかなとも思います。
最後に、参考図書を挙げておきます。
軽妙な語り口でコーポレートファイナンス理論の考え方がわかりやすく解説されていて、オススメです(特に文系の方に)。



コメント
アベノミクス終了後は、とありますが、
今は継続中というご認識なのでしょうか?
外国人投資家が通算で売り越しに転じ、消費増税確定の時点で一区切りついたという印象です。
今は「延長戦」みたいな感じでしょうか。