長年にわたり日本企業を研究してきた経営学者による、「再浮上する日本」に焦点をあてた本です。
過去30年間は「失われた時代」などではなく、さまざまなトレードオフがある中で、社会に損害を与えるような急激な変化を望まない選択をした日本にとって、必要な期間であったとするのが著者の考えです。
この期間における成功企業のパターンの一つが、「ジャパン・インサイド」になるという戦略です。
これはすなわち、グローバル・バリューチェーンできわめて重要な市場セグメントに特化し(「半導体戦争」での表現に言い換えれば、「急所」)、小さな中間財市場で優位に立つことで、言い値で取引ができる、技術リーダーになるということです。
そしてこうした企業が集合体となり、他国が経済活動のために必要とする中間財で多数のニッチを占有することによって、アジアの多くのバリューチェーンの技術的な支柱としての日本への依存度が高まる方向に、現実としてなってきています。
先行きに必要以上に楽観はしないまでも、そろそろ日本人が思っているほどには状況は悲惨ではないことを理解し、「悲観バイアス」からは脱しないといけませんね。
日本はスピードと安定、お金と意義、あるいは、利益と目的の間で独自の落としどころを見いだしている。
この本のユニークな点は、日本企業の目指すべき方向性を「文化」と結びつけていることです。
「タイト」な文化(皆が同じ規範を強く支持)なのか「ルーズ」な文化(皆が強く支持する規範が少ない)なのかで言えば、日本の文化は間違いなく前者になります。
漸進的なイノベーションと業務改善は、「タイト」な日本人の気質にマッチしている、「ルーズ」なシリコンバレーは参考にすべきではないとの指摘は、非常に説得力がありました。
外から観察しているからこそ見えてくるものがあり、この国は独自のアイデンティティを見つけようとしている国だと捉えられるのですね。
大変勉強になりました。
また、投資の面で参考になったのは、技術リーダーの地位にある企業の大半は、(市場自体が「ニッチ」であるとはいえ)実は中小企業ではなく大企業であり、その多くが複数製品で世界を主導しているということです。
著者は「技のデパート」として名を馳せた「舞の海」にその戦略をなぞらえていますが、その分析については読んでみてのお楽しみということにさせていただきます。
最後は、著者からのメッセージで締めたいと思います。
変われるから、買われる。日本人はもっと自分自身や自らの変わる力に自信を持つべきだと言いたい。変わろうと思えば、あなたも日本も変われる。日立のような巨大な老舗企業が変革できるなら、どのような大企業でも変われる。
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