約1年前に出版され話題となった本ですが、株式投資をする上でも参考になる部分が多いと感じましたので、ここで採り上げさせていただきます。
著者は、日本企業には会社の価値向上ではなく、「目先のPLを最大化することこそが経営の至上命題である」とする、短絡的な思考態度が根づいていると指摘します。
この「PL脳」は、市場の成長に合わせた計画経済的なアプローチがフィットしていた高度経済成長期には非常に有効に機能していたのですが、新たな市場開拓と非連続的な成長に向けた戦略が求められる低成長時代には合わなくなってきており、これを変える必要があるとしています。
今求められているのは、長期的な目線に立ち、経営資源を適切に配分し、会社の価値を最大化するための事業や財務に関する戦略であり、その構築を可能とするファイナンス思考だということです。
経済全体のパイが大きく成長している間は、企業も投資の回収可能性について考える必要に乏しかったのでしょう。
銀行による間接金融がうまく機能していたのも、最終的な損失発生の可能性が低かったからだとも言えます。
ただこれからは、企業における投資も成長を目的視したものではなく、価値の最大化に資するものでなければならないし、それに適合した思考様式が必要だということです。
これって、長期投資を志す上でも有益な考え方だと思います。
思えば、かつては私も「増収増益」にこだわる部分がありました。
その意味では「PL脳」にとらわれていたと言えるかもしれません。
ただそれだけでは、銘柄選択に限界が出てくるようになり、将来の企業の価値増大につながる「先行投資」とその回収可能性について考えるようになっていきました。
著者の言う「ファイナンス思考」が、知らず知らずのうちに身についていたのでしょうね。
期間を長くとってキャッシュフローを読み取り、PLとの乖離に投資機会を見出すという形をとることで、銘柄選択の幅が広がりました。
この本は全てのビジネスパーソンとして持っておくべきファイナンスの意識についてわかりやすく説明してくれています。
会計とファイナンスの違いを認識することの重要性を教えてくれる貴重な本だと思います。
また、巻末の「特別付録 会計とファイナンスの基礎とポイント」は、ファイナンスをこれから学んでいきたい方にとって有益なガイドになっています。
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