2つ前の記事(「1Q減益決算を利用する。」)の読者の方からのコメントで、「(このケースに該当する)アバントの1Qについて、私がどう分析しているのかを教えて欲しい」とのリクエストがありましたので、こちらでまとめておきたいと思います。
決算概要・グループガバナンス事業概観

まず短期のモメンタムを重視する方であれば、出ている数字からは「即売り」の決算であったと思います。
当社からは分かりやすく示していただいてはいるのですが、収益認識基準適用により売上・利益がかさ上げされた形になっているのも、見る人によっては印象が悪くなるのは否めないです。
ただ、もう少し長いスパンで見ることのできる投資家としては、今後の持続的な価値創造に対する懸念があるのかどうか、本質的な部分を慎重に分析しておきたいところです。
場合によっては、「買い」のチャンスとなることもあり得ますから。
今回のポイントは「グループ・ガバナンス事業の減収」「販管費の大幅増加」及びそれらに伴う利益率の低下にあると考えます。
肝となるグループ・ガバナンス事業について見ておきましょう。

収益認識基準適用前では減収となっていますね。
決算短信によれば、「コンサルティング・サービスの売上減少が減収の主な要因」とのことです。
もうちょっと詳しく知りたいのでIRに確認したところ、
- 昨年に比べて大型案件の件数が減っている(減収要因)
- しかしながら、グループ・ガバナンス事業の受注残は順調に積み上がっていることから、徐々に売上高に寄与してくるものと見込んでいる
とのことでした。
少なくとも案件が枯渇しているような状況ではないようです。
グループ・ガバナンス事業の受注状況
では、グループ・ガバナンス事業の受注状況を確認してみることにしましょう。

1Qの受注額を見る限り、前年同期比で増加しており、ここは問題なさそうです。
受注残を確認してみますと、前期4Qから今期1Qにかけて、2,349百万円から2,278百万へと▲71百万円への減少となっています。
しかしながら決算短信を丁寧に見ていきますと、ここは収益認識基準適用の影響による▲242百万円の減少を反映した数字であることが分かります。
(売上高の方に前倒し計上されている部分もあるということですね)
つまり、実質的には当事業は過去最高レベルの受注残ということです。
2Q以降での売上高への計上による巻き返しを期待してあげてもいいのではないでしょうか。
そして忘れてはならないのは、2021年3月に資本・業務提携したMetapraxis社の存在です。
前期本決算の決算説明会(スクリプトはコチラ)において、質疑応答の中で以下のやりとりがありました。

日本語化したソフトウェアは、8月に「DIVA Empower」としてリリース済です。
計画上アグレッシブな設定にはしておらず、2Q中ぐらいから成果として出てくるイメージとのことです。
当社としてもあまり織り込んでいない分、今後の受注獲得は業績予想に対する上積み分として期待可能な要素です。
人件費増の背景
もう一つ、グループ・ガバナンス事業の減益要因として、「製品開発・販売体制強化のために実施した待遇改善と人員増による人件費の増加」というのがあります。
こちらもIRに確認したところ、「製品開発やコンサルティング体制強化のため人材採用の費用が増加している」とのことでした。
ここでもう一度、前期本決算の決算説明会の質疑応答を振り返ってみたいと思います。

事業領域を絞った中で、少数精鋭でコンサル力の高い人材を獲得する方向性が述べられています。

そして、そのようなレベルの高い人材には獲得のコストがかかり、多くの報酬を支払う必要があること、および今期の計画においてはその費消分を予め見込んでいることが述べられています。
1Qで先行的に費用負担が発生していることも、この流れの中で理解できます。
まとめ
今回の減益決算(=グループ・ガナバンス事業の減益)については、
- サービスの多様化およびクロスセル強化の方向性に伴い、コンサルティング能力の高い人材をコストをかけて獲得
- 一方で、コンサルティング・サービスの売上高への計上が、一時的に停滞(ただし受注残は積み上がっている)
- 結果的に、売上高につながらない固定費負担が先行
といった文脈の中でとらえるべきだと考えます。
その意味では、前期本決算時の前提からは何ら崩れてはいない(元々、人材への先行投資を前提とした期であった)わけで、この1Qだけを以て今期予想からの下振れを懸念する必要はないと思います。
(人材への投資がそれ以上のリターンをもたらしてくれるかどうかについては、今後見極めていく必要はあります。効果が本格的に表れるのは来期以降でしょうが。)
少なくとも長期投資のスタンスにおいては、売るような決算ではないという認識です。
今後の持続的な価値創造に対する不安が生じたわけではないですから。
株価が8/6の前期決算発表時(=今期予想発表時)よりも大きく下げたのは(あの時も瞬間的にパニック売りの様相を呈していましたが)、個人的にはちょっと過剰反応ではないかと感じます。
いずれにしても四半期決算の数字は、単に前期比どうか、進捗率はどうか、ではなく、(従来からつながる)大きな流れの中で位置づけることが重要ではないかと思います。
人と違う丁寧な見方をすることで、チャンスも生まれてくるものです。



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コメント
ろくすけさん
ご投稿ありがとうございます。
今回も非常に勉強になります。
やはり情報分析範囲と精度が全然違いますね。
自分の実力不足につい焦ってしまいますが、忍耐は長期投資の要と肝に命じ、ろくすけさんを目標に少しずつ精進していくつもりです。
どうもありがとうございました。
今回の記事で、私自身も考えを整理することができました。
記事作成のきっかけを下さり、ありがとうございました。
いつも記事を楽しみに拝読しています。
アバントは、私も主力の一つにしております。決算発表前は、チャート的にはジグザグしていましたが、株価が下がるとすかさず買いが入っていたので、「決算発表は悪くはならないと皆さん思っているんだろうなぁ」と思い、下がったときに買えるように、余裕をもって下の方で指値で予約していたのですが、仕事終わって見てみると、約定していたので驚きました。
で、決算短信を確認すると、先行投資により減益ということで、短期的にはマイナスですが、中長期的には(先行投資の成果が出ればの話しですが)悲観するには早すぎない?と思っていたところ、ろくすけさんのこの記事を読んで勇気づけれられました。ありがとうございます。
しかし、私も8月の前期本決算の決算説明会は見たのですが、この記事にあるやり取りはすっかり忘れていました。ろくすけさんは、覚えていたのですか?それとも、今回の決算を見て、この数字を会社があらかじめ織り込んでいたものなのか、それとも予想外の良くない決算なのかを調べるために、過去の決算を調べなおしたのでしょうか?
コメントありがとうございます。
今期に関しては業績予想はわずかなプラスに留まっていましたし、その理由も決算説明資料に
「製品開発の強化、提案型人材の確保・育成に注力するため」と書かれていましたので、
「スタートの数字は厳しいかもしれないな」と、元々減益の警戒はしておりました。
決算説明会の後、日を置いて「決算説明会スクリプト・質疑応答」が還元されましたが、
その質疑応答(動画では無かった部分)を見ていて色々考えられた上での今期予想なのだなと
理解できました。なので場中決算で減益と出ても、慌てることはありませんでした。
ただここまでの株価の反応は予想外でしたけどね(苦笑)