三冨正博『「見えない資産」経営―企業価値と利益の源泉』を読む。

読書

アーサー・アンダーセン出身の著者が、同監査法人の「バリューダイナミクス」というフレームワークをもとに構築した仮説に基づき、「見えない資産」による価値創造について紐解いていく本です。

「見えない資産」とは、組織資産、人的資産、顧客資産のこと。

これらが「見える資産」である物的資産、金融資産へとつながっていき、そのサイクルをらせん状に繰り返していくことで企業価値が高まる、という仮説を立てています。

ワクワク」感のある組織に、「イキイキ」とした人材が集い、そこから提供されるサービスがお客さまの「ニコニコ」を生む。
その結果として、目に見える資産である物的資産や金融資産も増える。


一見、ありがちな「キレイゴト」に終始する本だと思ってしまいがちですが、本著が秀逸だと感じたのは、顧客と人材に関する冷静な視点です。

ここで大事なのは、文化や戦略に対する共感から離れてしまった顧客をなんとかつなぎとめようとすることではなく、意識的にプロアクティブに「新陳代謝を効かせる」ことである。

人は誰でも、あるところまでは成長するが、どこまでも成長していける人と、途中で成長が止まってしまう人に分かれてしまう。

潜在的な抵抗者が中核に転化するケースはほとんどつくれなかった。


ロイヤルカスタマーにフォーカスする。

文化と戦略に共感でき、成長を続けられる中核人材を重用する。

その逆方向にいる顧客や人材は、切り捨てることをいとわない。


会社勤めをそこそこの年数重ねてきた身としては、顧客と人材の多様性を認識した上で、「見極め」を行い「新陳代謝」を進めていく部分に、とてもリアリティを感じます。

(同時に、もっと若い時に、この考え方を身につけておけば良かったとも思います。)

そして、企業の栄枯盛衰や今後の姿を分析・予想するに際しても、この冷たい頭と熱い心の合わせ技のような「見えない資産」に関するフレームワークが、非常に有用であることが分かりました。

(何らかの挫折を経た後、組織として強くなった企業に投資したくなること請け合いです。)


また、詳細には触れられておりませんが、DCF法による企業価値評価にも、この「見えない資産」のフレームワークを活用しているようですね。

確かに、評価の大部分を占めることになる継続価値(ターミナル・バリュー)に関しては、根底を成す「文化」の要素が大きい気もしました。


長期投資を志向する上で、色々なヒントを得られる本です。

数字や「型」だけでガチャガチャやっていても、どこか表層的だなと感じている方、ビジネスモデル以前の定性的な部分で何かをつかみたい方に、オススメしたいと思います。

有価証券報告書を読み込む上で、新たな視点を持つことができそうです。
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