DCF法からの学び(3)~資本効率の大切さ(運転資金)

投資スタンス

前回、FCFの中で「設備投資」「運転資金の増加額」をいかに小さくするかがポイントというお話をしました。


「設備投資の少なさ」に続いて、今回は「運転資金の小ささ」について述べてみたいと思います。

運転資金の小ささ。

事業活動にかかる運転資金は、通常「運転資金=売上債権+棚卸資産ー仕入債務」で求められます。

そしてこの水準は、月商に応じて増減します。
(売上の〇ヶ月後回収・仕入の△ヶ月後支払という条件面、及び月商に対する在庫水準が一定の場合)

この「運転資金の増加額」(増加運転資金)が小さければ小さいほど、FCFは大きくなります。


これを小さくするためには、売上高の伸びに対して運転資金の伸びを抑えることがポイントになります。

そのためには、運転資金をできるだけスリムに保つことです。

そうであれば、売上高が伸びたとしても運転資金の増加は緩やかになります。


具体的に見ていきましょう。


月商に対する運転資金の水準が1ヶ月分のA社と、2ヶ月分のB社とで、増加運転資金について比較したのが上図です。

同じ月商の伸びに対して、B社の方が増加運転資金が大きくなり、その分FCFが食われてしまうのが分かるかと思います。
運転資金の少ないA社の方が、FCFを伸ばしやすいのです。


運転資金をスリムに保つことが、成長企業がFCFを伸ばしていくための大きなポイントです。

(ここでは説明を省略しますが、アマゾンのように、運転資金を意図的にマイナスにして資金余剰の状態を作り、それによって成長を加速させている企業もたくさんあります。)


では運転資金をスリムにするためには、何をしたらいいでしょうか?

月商に対して、売上債権・棚卸資産を小さく、仕入債務を大きくすればいいですよね。

具体的には、例えば以下のようなやり方になります。

  • 回収を早める
    (例・現金回収を促進する。債権を売却し資金化する。)

  • 在庫の適正化をする
    (例・需要予測をし作り過ぎない、あるいは売れ行きに応じた追加生産体制を整える。売れる分だけを店頭に置き、倉庫さらには生産地からのリードタイムを短縮する。)

  • 支払を遅くする
    (例・仕入先への支払条件を長めに設定する。商社を間に入れる。)


回収条件、支払条件のバランスをどうするか…

回転率・粗利との兼ね合いで在庫をどのレベルに保つか、生産地をどこに置くか、物流をいかに効率化するか…


このように、販売先・仕入先との力関係、オペレーション全般の巧拙も、運転資金のレベル感に反映されます。

運転資金(及びそれを構成する各項目)を切り口として企業の実力を見ていくようにすると、定性面の理解もより深まると思います。

(続く)

運転資金が生じる企業の方が、分析のしがいがあって好きです。
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