2Q決算発表・通期業績予想公表と同時に優待新設を発表して以降、株価が好調な婦人靴製造小売の【7683】ダブルエー。
表面的には減収減益かつ赤字ということで、優待新設を好感した買いが入っているというトーンで巷では解説がなされております。
でもむしろ評価すべきなのは、2Q単独(5-7月)の業績と各種資料に記載されている内容です。
2Q累計では赤字ではあるものの、2Q単独で見れば売上高3,736百万円、営業利益282百万円、経常利益275百万円と黒字に転じております。
しかもこれは、緊急事態宣言を受けて(途中から一部再開はあったものの)全ての国内実店舗の営業を停止していた5月が入っての数字。
医療従事者支援、山手線のラッピングやホームドア広告の費用負担もあった中で、実質的に6月・7月の2か月間でここまでの利益を積み上げたことは称賛に値します。
特に、5/1に子会社化したばかりの卑弥呼が既に黒字に転じていることは、ポジティブ・サプライズです。
ここはきちんと評価してあげないとと思い、今回記事を書くことにしました。
卑弥呼はお買い得だった。
卑弥呼の買収価格が4億円であったことは既知だったのですが、今回5.4億円の純資産のものを4億円で取得したことが判明しています。
(これに伴い、負ののれん発生益1.4億円を計上)
4億円から卑弥呼の現金及び現金同等物を差し引くと、手数料除きでわずか1.8億円強の持ち出しで取得した形になります。
これなら手元資金だけで十分対応できます。
財務が痛むこともなく、ブランド価値を考えればとってもお買い得に思えますが、
- 卑弥呼の資金繰り悪化
(上場廃止直前は現預金63億円のキャッシュリッチだったのが、わずか2億へ。TOBで資金を使ったとはいえ…) - 卑弥呼の過去の業績(靴事業は5期連続赤字)と、新型コロナウイルス感染症を受けた今後の業績への懸念
からすれば、ファンド(リサ・パートナーズ)の立場として、どんなに安くても損切りせざるを得なかったのだと推察します。
一方のダブルエーは、勝機が見えていたからこそ赤字企業の買収に踏み切りました。
買い物上手、交渉上手ですね。
では一体、どこに勝機を見出していたのでしょうか?
卑弥呼ができていなかったこと。
卑弥呼が過去5期連続赤字に陥っていた原因は、以下の2つにあると考えています。
- リブランディングの失敗
- 業績低迷を受けた仕入抑制による、販売機会損失
同社は赤字になりファンド傘下となる以前から、百貨店の動向に合わせるように業績の長期低迷が続いていたのですが、その挽回策として20代を中心とした若年層の取り込みを狙うべく、リブランディングを図りました。
「卑弥呼」を「HIMIKO」へ。
幅広いターゲットを対象とすべく、ブランドを細分化。
結果的にはこれが悪手でした。
ファンド傘下で資金面の制約がある中、これが経営資源の散逸を招いてしまい、売れ筋商品へ焦点を定めた追加発注等の対応が不十分だったり、サイズ展開の不備があったりして、大きなチャンスロスが常態化していたのだと思われます。
多ブランド展開不発→業績低迷→資金繰り悪化→仕入抑制→チャンスロス発生 という悪循環ですね。
ダブルエーがまず行った打ち手。
それではこの状況に対し、ダブルエーはまずどんな手を打ったのでしょうか。
決算説明資料から買収後の動向を見ていきましょう。
目立つのが、自社ECサイトを中心とするECの強化です。
クーポンやプレゼントを含めた各種施策も明らかに増えましたね。
資金を回転させるために、まず「売り切る」ための販売チャネルとしてECをテコ入れしたということです。
在庫をさばける手段を増やすことで、店頭と共有しながら品揃え・サイズ展開を充実させることが可能となりますし、売れ行きに応じた追加投入もスムーズになります。
ダブルエーが運営するブランド ORiental TRaffic と 卑弥呼 の共通の強みは、幅広いサイズ展開です。
特に足の大きな方と小さな方からの支持は切実なだけに絶大なものがあるのですが、その強みを活かしきるためには、在庫を充実させること、それを売り切ることが必要です。
これが「高回転販売」を標榜するダブルエーの強みである一方、卑弥呼では不十分であった部分で、ココを再生のためのセンターピンととらえたのでしょうね。
EC強化からの好循環は既に実店舗の他社に先駆けた回復という形でも表れていて、百貨店側からは売り場の拡張や(売りやすい場所への)移転のお話も実際にあるようです。
秋冬以降の打ち手。
この秋冬からは、ダブルエーの関与もいよいよ本格化します。
各所から情報を収集してみたところ、以下のような取り組みを行っていくことが分かってきました。
- ブランドの集約・新商品の積極的な投入
上図の通り、3つに集約し経営の効率化を図るようです。
定番品・顧客層拡大を意識したトレンド反映商品・ビジネス用途と、焦点が定まっていて良いですね。
ダブルエー側の問題意識としては、「昔は輝いていたが、新しいお客様が獲得できていない」というのがあるようで、今後は顧客の声を活かした商品開発にも深く関わっていくものと思われます。 - 海外出店
既にダブルエーとしては海外店(香港・中国・マカオ)の運営実績は豊富なのですが、卑弥呼としては9/1付のSOGO台北忠孝館店が海外初出店となります。
肖社長は長年卑弥呼を観察してきて、海外でも売れると踏んでいるのでしょう。
これがおそらく、買収の一番の目的ではないかと思います。
特にジャパンメイドの製品は、「日本風」だけど中国製の ORiental TRafficとはまた違った魅力を訴求できそうです。 - アウトレット出店
「売り切る」ための販売チャネルとして、ECだけでなくアウトレット出店も開始しました(9/4付三井アウトレットパーク幕張店OPEN)。これもダブルエーのノウハウを活かした戦略です。
この他、細かいところでは下取りによるクーポン提供でリピート購買を促す施策も、まさにダブルエー流ですね。
グループ全体の戦略と所感。
こうして見ますと、お互いに重ならない領域を補完でき、かつ卑弥呼の弱みである部分にダブルエーの強みを投入できる組み合わせとなっていて、改めて良い買い物であったと実感します。
早期に結果も表れていますので、2021/1期はともかく、2022/1期以降は大いに期待できそうです。
個人的には、F1層の ORiental TRaffic の顧客を、将来的にどうF2・F3層の 卑弥呼 へと送客していくのかに興味があります。
自社ECで収集した顧客データを上手に活用していくことになるのでしょうか。
とにかく、ダブルエーは 新規上場時にはなかった卑弥呼という成長の種 を安価に得ることができました。
目先のリスクは、緊急事態宣言の再発令です。
都市型店舗を展開する当社グループにとっては大きな痛手となります。
ただ少し時間は要するでしょうが、平常運転に戻るだけでSPAとしての元々の高収益性がクローズアップされると考えています。
海外を含めた出店余地の大きさによる成長可能性等も考えれば、単なる優待銘柄として片付けるにはもったいない、なかなか面白い存在ではないでしょうか。
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