土木資材に「繊維」を採り入れる新しい発想から土木事業に参入し、「人」と「技術」を「混ぜる会社」として、事業の多角化を企図したM&Aを成長戦略の一つに掲げる前田工繊(福井県坂井市)。
そのM&A戦略を支える思想について整理しておきます。
前田工繊グループの歩み
まずグループの変遷です。
随分と忙しいですね。。
従前は公共事業が9割であったため、その危機感から2002年の太田工業の子会社化以降、多角化に舵を切ったようです。
M&A実績の詳細(所在地・事業内容)については、会社のHPに記載されています(当記事作成時点で14件)。
元々は土木関連でM&Aを行っていたのですが、2010年代からは自動車用ホイールや農業、ヘルスケア事業等、一層の多角化が進んだ様子がうかがえます。
M&A基本方針
これだけ買収を行うと、「のれん」が気になります。
財務を見てみましょう。
ワシ興産・ワシマイヤー(現BBSジャパン)を入札により買収した2014/9期にのれんはそこそこ増えましたが、それでもピークで16億円弱。
のれん償却額は小さく、またそれも今期にはゼロとなります。
そして何より、営業利益の伸びに買収の成果がきっちりと表れています。
高値づかみをせず、財務を傷めないM&Aを行ってきたことが分かりますね。
ここで当社のM&A基本方針を確認しておきます。
1.原則、「モノづくり」の会社であること
2.優秀な人材と特別な技術、製品があること
3.営業、生産体制に改善の余地があること
4.過大なのれんが発生しないこと
買収後に「混ぜる」ことを意識していること、企業価値向上の見込みがあること、財務にも十分配慮していることが分かります。
なおIRに確認したのですが、釧路ハイミール(買収時、債務超過でした)で行う水産業など、本業との関連性が薄いと思われる事業についても、検討範囲に含まれるとのことです。
利益率やシナジー効果などの検討材料もあるものの、基本的にはニッチ市場でのトップシェア企業であることを優先しているようです。
これはいいですね。
昔投資していた、あい ホールディングス のことを思い出しました(情報量が多い分、前田工繊の方が今は気に入っております)。
地方創生
なお、当社は「地方創生を原動力とする成長」も強みの一つに掲げています。
実際、地方企業の買収も目立ちます。
日本の地方には、世界に誇れる技術やノウハウを持つ「モノづくり企業」が数多く存在します。しかしながら、地方の企業は、企業規模や経営者の高齢化などの問題から、販路開拓や技術承継、人材活用に悩みをもつ会社も少なくありません。
当社はこうした悩みに対し、M&Aを活用することで、顧客・技術・製造といった当社グループの経営資源を「混ぜる」ことで解決し、地方企業を成長に導いています。
買収後すぐに、前田工繊の営業担当者が買収先企業の技術と製品を理解するための勉強会が行われ、被買収企業の技術と製品は前田工繊の営業網に迅速に組み込まれるそうです。
生産現場の整理整頓、必要な設備投資の実施、成果の「見える化」、月次会議・経営会議による問題解決等と合わせ、企業再生の形で地方活性化にもつながるような取り組みを行っているんですね。
人と人とのつながり
ここで当社の経営理念を以下に記しておきます。
「人と人との良いつながりがすべての基本であり目標です。」
当社の多角化の歴史にも、この理念が活かされていると思うエピソードがいくつかあります。
M&Aの情報入手には多様なルートがあるそうですが、人的つながりがなければ、実現しなかったであろうと思われる案件もあります。
・太田工業は元々当社の取引先であったが、「事業承継が難しい」と前田会長が相談を受けたことがきっかけで、子会社化した。
・前田会長の友人である元カルビーのカリスマ会長・松本晃氏を非常勤取締役に招聘、その後スイスの医療機器メーカー社長を紹介してもらい、独占販売契約締結により医療分野参入につなげた。
前田会長は、若い時から、経営状態の良し悪しに関係なく、こまめに銀行まわりをされていたそうです。
日頃の信頼の積み重ねが、良質なM&Aの実績、少額ののれんにもつながっていると感じます。
おそらく、仲介手数料の節減にも寄与していることでしょう。
これからどんな事業を取り込み、混ぜて化学反応を起こしていくのか、楽しみに見守っていきたいと思います。
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