PBR1倍割れの意味するところ
ESGとPBRの話が出てきました。
ここで「PBR1倍割れ」の意味を考えてみたいと思います。
コモンズ投信は「見えない価値」を見出すことに力を入れていらっしゃいますが、「『見えない価値』とはつまるところ、働いている人の価値である」と、渋澤会長は仰っていました。
「最大の財産」であるにもかかわらず、B/S上では見ることができず、人件費として消えていく。
「時価総額=株主資本簿価+市場付加価値」とすれば、この市場付加価値の部分に働いている人の価値が反映されなければなりません。
言い方を変えれば、PBR1倍を超える部分が「人的資本」を含む「非財務資本」=「見えない価値」であり、ESGの価値に関わる部分ということになります。
では、「PBR1倍割れ」(=「非財務資本」のマイナス)は何を意味するのでしょうか。
渋澤会長はわかりやすく、「そこで働いている人がマイナスであると見られている」「資本市場からの強烈なメッセージを突き付けられている」と喝破していました。
みんな一所懸命働いているのに、会社としても人材に大きな投資しているつもりなのに、市場からは人材が価値として認められていない…
こんな悲しいことがあるでしょうか?
でもこれが少なくない日本企業にとっての「不都合な真実」なわけです。
(個人的に、以前からPBR1倍割れの企業に投資することに抵抗感があったのですが、このセミナーに参加したことで理由が明確となり、その想いはより強くなりました。)
エーザイの取組
「見えない価値」の可視化が、日本企業の大きな課題であることが明らかになりました。
では、エーザイはどのようにESG経営に取り組み、「見えない価値」を顕在化させているのでしょうか。
講演では、柳さんが同社の非財務の価値を定量分析した結果について紹介していただきました。
ESGがPBRと正の相関関係があることを重回帰分析で解析し、世界で初めて開示するに至ったそうです。
100弱のESGのKPIについて約10年遡ってデータサンプルを収集し、「遅延浸透効果」を考慮しながら、それらがPBRにどのような影響を与えているかを分析する手法を取ったとのこと。
その要旨が以下になります。
柳さんがやりたかったこと。
それは、パーパス(企業理念)が社会的価値をつくり、事後的、遅延的にROEやPBRを高め、企業価値を創っていることを証明することです。
エーザイは2005年に世界でいち早く定款にパーパスを入れた企業です。
「本会社は、患者様とそのご家族の喜怒哀楽を第一義に考え、そのベネフィット向上に貢献することを企業理念と定め、この企業理念のもとにヒューマン・ヘルスケア(hhc)企業をめざす。」
なんと、この文言が定款に入っているんですね。
この実証研究では、利益や配当を創るためのショートターミズムに陥らずに、長期を見据えて患者さんへの投資(→研究開発費)や人材への投資をした結果、それが見事に価値に反映されていることが示されています。
短期的には利益がどうしても凸凹する医薬品業界特有の難しさを乗り越えています。
柳さんはこうも仰っていました。
「PBR1倍割れは起こしません。私がいる限りは。もし起こしたらクビにして下さい。」
こんなCFOが増えてくれると、日本の株式市場も間違いなく盛り上がりますよね。
「ESG=エーザイ、スゴい、頑張ってる!」の略だそうです(笑)
お手伝いに来られていた社員さん2名による発言もありましたが(当事者意識がとても強く、優秀な方々でした。こんなところにも人材への投資効果が表れていると感じました)、こんなユーモアと熱意のある上司の下で働けたら楽しいだろうとも思いました。
おまけ
セミナー終了後、柳さんの(超レアな)サイン入りの著書のプレゼントがありました。
ありがたく拝読させていただきます。
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